君だけは
   僕の夢を見て






「失礼しまーす」

軽く頭を下げて職員室に入室すると、ヒュンケルの席の周りには既に女子が集っていた。

よく見るとなぜか保健室のエイミ先生までいたりする。

近づくことを躊躇っていると、こちらに気付いたらしくヒュンケルは外野を去らせはじめた。

「人気あるんすねー」

ようやく最後の一人・・・エイミを追い返したヒュンケルにポップは思わず呟く。

「初日だからな。珍しいだけだろう」

あっさりと切り捨ててしまうのが妙に似合ってて悔しい。

「それよりもポップ、このプリントを明日俺が教室に行くまでに配っておいてくれ」

「へ?」

何事も無いように渡されたプリントを見やり困惑する。

「そっちの方が早く終わるだろう」

さも当然に言われるが戸惑いは拭えない。

「いや・・・なんで俺?」

「名前を知っているのがお前しかいないからだ」

わけのわからないポップの様子にヒュンケルはクツクツと笑った。

「ひとつだけ言っておくと、俺は根暗じゃないんでな」

どうやら朝の科白が聞こえていたらしい。

(嫌な奴――!!!!十分根暗じゃねぇかっ)

ポップが何か言おうとしたその時、別の職員にヒュンケルの名が呼ばれた。

「どうやら行かねばいけないようだ。そうむくれるな――お前は特別だしな」

ポンっとポップの頭を軽く叩き、去っていく。

「な、なんだぁ?」

意味を取りあぐねたポップには、眉を顰めることしか出来なかった。









「ただいま〜」

部屋に入る前に、小腹を満たそうと思い台所へと向かう。

「お帰りなさい。冷蔵庫にゼリーが入っているから食べたらどう?」

食器を洗っていたスティーヌが手を止めて言う。

礼をいい冷蔵庫から取り出したゼリーを持ち食卓へと移ると、

スティーヌは再び食器を洗い始めた。

ポップは、ゼリーを口に運びつつその姿をじぃっと見つめる。

腕まくりをした母からは痛ましい暴行の跡が覗いていた。

そしてそれらの痣が身体のあちこちについていることもポップは知っている。

『可哀想に・・・お前のせいであの女は殴られるんだよ』

下卑た笑いを浮かべる親戚達。視線の先には母をいたぶる宗家の人間。

婿養子であった父が家を出る決意をしなければ今のような幸せはなかったはずだ。

この町に小さな工具店を開き、豊かではないがあの頃に比べずっと良い生活である。

そもそも、親戚達が言う『強い力』というものが自分にあるとは到底考えられなれない。

確かにポップには普通の人間とは異なる力があったが、それはあくまで『普通』の人たちであり、

この一族の中ではポップ程度の力を持つものなどいくらでもいる。

しかし、周りのものは何故か自分を腫れ物のように扱い、

疎む気持ちを母であるスティーヌで発散させていたのだ。

「ポップ?どうしたの」

・・・嫌なことを思い出してしまった。逃げ出した後に追っ手が来ないということは、

もう二度と宗家と関わらなくてよいということなのだろうから結構ではないか。

「うんにゃ何でもないぜっあ!今日、夜にダイと待ち合わせしてるから飯食ったら出かけてくる!」

大急ぎでゼリーをかきこむと、ポップは自分の部屋へと戻っていった。










自室で横になると、過去の続きか師匠と先生の顔が浮かぶ。

口が酷く悪く意地の悪い師匠と、その対照的に穏やかで優しい先生。

二人は宗家の人間でありながらポップと普通に接してくれたばかりか

力の調整法まで教えてくれた。

あの頃の楽しかった記憶といえば二人との修行くらいだ。

力を冷気に変えるヒャドや熱に変化させるメラなど、覚えるのは大変だったが

誰かに認めてもらえることがひどく嬉しかった。

師匠が憎まれ口を叩き、先生が頭を撫でてくれて――あともう一人・・・・・

ぼんやりと何かが浮かんだ時、ポップの意識は深い闇の中へとゆっくりと身を落としていった。







思ったよりも深く眠っていたらしく、夕飯の準備が出来たと呼ぶ母の声で目が覚める。

晩御飯は誕生日のおかげでポップの好物ばかりが並び、実に満足した。

「んじゃ行ってくるわっ」

「気をつけるのよ」

ほーい、と軽く返事をする。怪訝な顔をする父に母が説明しているのを背中で聞き、

ポップは意気揚々と玄関へと向かった。







「よしっ行くか!」

靴紐を結び気合を入れる。

と、その時、蝙蝠のような生き物がポップに向かい突き進んできた。

「メラッ」

手を翳し唱えると、無から現れた炎がソレを焼き尽くす。

ポップは何もいなくなった空間を見つめ軽くため息をついた。

闇に消えたのは所謂『妖』と呼ばれるもので、人間の気を好む。

自分の血族は特に『気』が強いらしく惹きつけやすいらしい。

しかし実家にいた時は破邪の結界が張られていたので何も入ってこられず、

こちらに越してきてからも、現れるものといったら先程のような小さなものばかりなので

初級呪文で十分対応できてしまう。

個々に内在する『気』の強さにより惹きつけるモノのレベルも違うので、やはり自分の力は

弱いものなのだろう。もっとも幸運としか思わないが。

ポップが気を取り直して歩を進めていると、ポケットから携帯の振動音が伝わる。

画面にはメール受信と表記されていた。

「んな?ダイの奴遅れるのか〜」

少し口を尖らすが、申し訳なさそうにメールを打つ親友の姿がありありと目に浮かんだので

すぐに苦笑してしまう。

とりあえず先に行って待っているか、そう思い歩き出す。

公園に着いたポップはベンチに腰をかけて空を仰いだ。

雲の切れ端も無いそこには、月が見事に円を描いている。

「なぁんか嫌な風が吹いてきたな」

頬を撫でた風は、浮かれているポップの心に不安の影を落としていった。





                                           続く≫






ようやく2話をアップです。
ジャンクの店を何にしようか一番迷いました(そこかよ
妹に「武器屋って現代だと何屋だと思う?」
と尋ねたところ、「金物屋」との答えが(((((゚Д゚;)))))
主人公が金物屋・・・・はなぁと思い工具店に(笑
なんだか今回は散文形式でスミマセンっ
自分でも読みにくいもの!(ダメ