とある森。

人もいないような奥深いその場所に、鳥たちのさえずりだけが響く。

だが、今は違っていた…
 

危険なもの


「お前は気を許し過ぎだ!」

「うるせぇな!結局は敵を倒したんだからいいだろ!」

「怪我をしといて、何を言う!?」

「別にてめぇが怪我したわけじゃねぇだろ!?」

先頭を歩くポップ、そしてその後を追うのはヒュンケル。 ずんずんと足元の草を掻き分け歩く。

不意を突かれ腕に傷を負ってしまったポップ。

その彼に自然と怒りを現し、声を上げるヒュンケル。

「そう言うことを言っているのではない!」

一端足を止め、ポップはヒュンケルに向き直る。

「見ろ!もう怪我してねぇ!」

そして既に傷の消えた自分の腕を見せ付ける。 だがその行為は逆に怒りを煽った。

「呪文で治しても同じことだっ!!」

「いちいちうるせぇな!終わったことだろ!!」

「っポップ!!」

また歩き出すのをヒュンケルは止めようとするが、ポップは聞く耳を持たない。

全てはレオナから受けた、魔族残党の調査とその処理という依頼。

本当ならダイとポップの二人に行かせるのだが、レオナがそれを許さなかった。

『ダイ君は他にやることがあるから、ポップ君?ヒュンケルとでも行って頂戴! 』

もちろん反論したポップだったが、宮廷魔道士長といっても相手はお姫様。

それが受け入れられることなどなく、仕方なしにヒュンケルといく派目になった ポップ。

最初は良かった。 二人で何気ない会話をしたり、じゃれ合ったり。

それが一瞬でもポップが危なそうなことをすれば、必要以上に心配をし付きまと う。

先ほどの戦闘で三流の魔族が出てきたのを見て、全力では戦わなかった。

だからといって気を緩めたわけではない、それなりに対応をして怪我を負ったの だ。

いくら大魔王を倒した自分達だとしても、魔族相手に無傷でいられるなど思ってはいない。

それにヒュンケルだって多少の怪我を負ったのだ。 たまたまポップの負った怪我がヒュンケルの怪我より大きかっただけ。

多少の違いでこんなにも叱られては、ポップも黙ってはいられないのだった。

「〜〜お前は心配し過ぎなんだよ!」

言ってまた立ち止まり振りかえると、そこには切なそうな顔をしたヒュンケル。

その顔に一気に文句を言おうとしたポップは黙ってしまう。

「お前のことはいつも心配でたまらない…」

いつもならこのセリフにも文句を言う所だが、ポップは俯いてしまい、

「か弱い女のこじゃねぇんだ…もう少し信頼しろよ…」

そして小さく言う。

「信頼はしている。でも、いつもお前は気が緩みすぎるんだ」

「そんな言ったって、いつも気を張ってなんかいられるかよ…」

「違う、そう言うことではない。自分がどれほど危険かお前はわかっていないんだ」

その言葉にポップは俯いていた顔を上げる。

「危険って…。そんなに日常危険なはずがねぇだろう?」

「いや、危険だ!」

言うヒュンケルの顔はいつになく真剣でポップは眉をひそめる。

そんなポップを逃がすまいと、ヒュンケルは彼の両肩を掴む。

「とくに宮廷内など危険過ぎて、おちおち稽古もしてられん!!」

「…は?宮廷なんて安全そのものじゃんか?危険な奴なんていねぇだろ?」

ポップの言葉にヒュンケルはカッと目を見開く。

「いるのだ!それも危険極まりないお前を狙う魔物がっ!!」

肩を掴む力が一層強くなり、ヒュンケルの形相は凄まじいものに変わっていく。

ポップは何をいう事も出来なく、黙って彼の言葉を聞くしか出来ない。

「あぁ!思い出しただけでもおぞましい!!  常にお前に付きまとい、隙あらば襲いかかろうとする、地上最強の勇者・ダイ !  何かと仕事を頼んではお前を使い、周りを翻弄し楽しむ、パプニカ王女・レオ ナ姫!  優しい振りをして手作りの者に薬を盛り、いかがわしい事をしようとする、女 武道家・マァム!  お前に会う為に権力を使い、あの頭脳で甘く罠へと誘いこむ、元勇者アバン!  己の体を利用しポップに回復を求めながら、部屋へ忍びこむ、オリハルコン兵 士・ヒム!  素早さを活かし所有物を持ちかえりながら、良い友人として密かにお前を狙う 、ラーハルト!  特に危険なのはストーカー紛いをし、得意の占いで人為的に落そうと狙う、占 い師メルル!  さらにはお前の信頼を余所に隠し撮りしては、周りに高額で売り飛ばす、高齢 大魔道士・マトリフ殿!  宮廷内の者はほとんどその写真を買い求め、販売5分にして売り切れ!」

口下手なヒュンケルが一気に言い切れたことを誉めるのだろうが、内容が内容だ 。

ポップは遠い目線でヒュンケルを見詰め、もはや何も言おうとしない。

「最近などはどこから復活したのか、バーンやキルバーンらしき者も現れたのだ ! お前を手に入れようと企んでいるはずだ…今まで以上の警戒が必要だ…! だが安心しろ、ポップ!俺がしっかりと常に影から見張っているからな! 売り出された写真と所有物もほとんど回収し、今は俺の部屋で綺麗に飾ってあ るから心配はないぞ! しかし先ほど名を挙げた者たちは難しくてな…。最後の闘いを乗り越えた物だ けはある…。 でも大丈夫だぞ!俺がお前の危険を排除してやるさ!」

グッと己の拳を握り締めるヒュンケルにポップは俯き震えている。

その様子に気付いたヒュンケルは声をかける。

「どうした?ポップ…」

「………」

「そうか…魔物の正体に驚いたのだな…?  大丈夫だ、俺が守ってやる。お前は怖がらなくていい…」

言ってヒュンケルは震えるポップを抱きしめようとする。

と、ポップは両手を構え何やら小さく言葉を紡いでいる。

「?」

不思議に思いヒュンケルがポップを覗きこむ。

「っっお前が一番危険じぇねぇかあぁぁぁ〜〜〜っ!!!!」

ドゴォォォン!!

巨大な音に辺りの鳥は一斉に飛び立つ。

ポップの一応控えたベキラゴンにヒュンケルは声も無く倒れ伏した。

怒りのあまり肩で息をしたポップは、しばしヒュンケルを見詰めた上でまた呪文 を唱える。

「てめぇ一人で帰って来いっ!!」

言ってルーラで遠く彼方へ消えて行った。 そして残されたヒュンケルは、消えたポップの気配を感じると、

「ポップ…愛してるぞ〜〜v」

大魔道士の攻撃に焦げた体を起せぬまま、一人言うのであった。


りん様より頂きました〜もぅ面白すぎです!(グッ!
こういう関係のヒュンポプが大好きなのでツボをつきまくりですよー!!
お馬鹿な兄貴が大好きですvv
素晴らしい作品をどうもありがとうございましたvv