※ とある日のこと ※



「ラーハルト!」

聞きなれた声に振り向くと、相手は走ってきたのか肩で息を切らしていた。

「悪ぃ!ちょっと頼まれて欲しいんだけどさ・・・・」

相手は至極申し訳なさそうに眉を顰めているが『頼まれて欲しい』では拒否権など初めからないようにも思われる。

「どうした、お前が俺に頼みごとだなんて珍しいな。なにか厄介ごとか?」

目の前にいる少年―ポップ―にそう尋ねると彼は苦笑いを浮かべた。

「いや・・・大したことじゃねぇんだけどさ、ちょっと手合いを頼みたいんだよ」

「手合いくらいなら別に今すぐにでも構わんが・・・いつも犬みたいにくっついているアイツには頼まないのか?」

いくら大戦により傷ついた身体だといっても手合いくらいは平気なはずだ。

「ヒュンケルの馬鹿だと手合いの意味がねぇんだ・・・」

手合い中、常にポップのことばかりを気にするので全く練習できないらしい。

末期だな

良きライバルの筈である男の姿を浮かべると無性に悲しくなったりする。

「なるほど。だがアイツが知ったら集中してできないんじゃないか?」

「あ!そこは大丈夫!俺って結構重圧呪文も得意なんだ♪」

どうやら犬よりひどい扱いをうけているらしい。しかしまぁ本人が幸せならいいのだろう。

「お前・・・本当にヒュンケルのことが好きなのか?」

呆れ顔の俺に向かってポップは華やかに微笑む。

「さぁね!教えねぇよ♪」

だが、言葉とは裏腹にこいつの気持ちがひしひしと伝わってくる。

なんだ・・・こいつも結局、馬鹿の片割れなのか

パタパタと広場へ走っていくポップに俺は深いため息をつく。

当てられただけのような気がして、ふと悪戯心が芽生える。

それをいったのは本当に只の思い付きだったのだ。

「ポップ」

ん?と立ち止まり振り替える少年を後ろから抱きかかえる。

「俺が、あの馬鹿と同じようなことをしたらどうする?」

今、この少年はどのような顔をしているのだろう

焦ってるのだろうか

怒っているのだろうか

・・・困ってしまったのだろうか

なぜか、それだけは嫌な気がする。

「ラーハルト」

目の前にあったのは、想像していたどの表情とも違っていた。

「俺、そんなに弱くないつもりだけど?」

がっっと肘を鳩尾に叩き込み腕の間から抜け出ると、

にっと笑って見せている。

・・・まいった

「冗談だ。ほら、さっさと行くぞ」

おぅ!と何事も無かったように走る彼を恨めしくも思う。

アイツを敵にまわすと厄介なんだがな・・・

それでも、欲しいと思ってしまったのだ。望みはきっと叶わないが、ひょっとしたら気まぐれなのかもしれない。

だが、それもいいだろう

「ラーハルト!貴様ぁ!」

突然、地の底から搾り出されたような声と心寒い気配を感じたので振り返ってみるがそこには誰もいない

ラーハルトは首を傾げ、ひょっとしたらと下を向く。

思った通り、そこには重圧呪文により地べたを這いずる戦友の姿があった。

「貴様ぁ!先程ポップに何をしていた!」

自分もこの男の仲間になるのかと思うと少し、いやかなり厭な気がしたが仕方が無い。

「おい、こんなことをされてもお前はあのガキが好きなんだろ?」

「ガキと言うな!無論俺はポップがいれば他には何もいらん」

自分にとって六つや七つ年下ならば立派なガキではないか

まぁ俺も笑えんがな

取あえず、目の前(下)の男に戦士らしく布告をするとしよう。

「ヒュンケル―――」




苦虫をかみ殺したような顔の男を背に、俺は自分の名を呼ぶ声の方へゆっくりと足を進めた。



                           終


久々に書いたんで微妙な・・・まぁ微妙なのはいつものことですけど(笑/えない)

私は結構 ヒュンポプ←ラー な関係が好きだったり。