イライライライライライライライライライライライライラ
行方不明であった勇者も見つかり、すっかり平和となったパプニカ城の一室。
そこは今、不穏な空気が充満していた。
その空気の発生源でもある男は、それはもう!!
城下町の人々が一瞬にして死に絶えたかのような仏頂面で腕を組み、部屋の四隅をぐるぐると回っている。
とても不気味な光景だがどうやら考え事をしているらしい。
男はしばらくそうやっていたが、突然前かがみによろけてしまった・・・
どうやら回りすぎて気分が悪くなったらしい。
―――男の名はヒュンケル。
そう、今はその名を知らぬものなどいないとまで言われている最強の剣士であった。―――
コンコンコン コンコンコン コンコンコン ゴンゴンゴン!!
クレッシェンド(だんだん強く)な感じでドアが叩かれる。
ヒュンケルは音とともに立ち上がり・・・目眩と吐き気にやや負けながらも、
あることを期待し勢いよくノブを回した。
「ポップ!!!何時だと思ってるんだ。もう十時を廻ったぞ!!一体今までどこにぃ・・・・
ってポップじゃないな。すまん。」
目の前に立っていたのは、呆れ顔を浮かべたレオナ姫であった。
「ポップ君じゃなくて悪かったわね。ってなにこの部屋?!むっとした空気で嫌になっちゃうわ。」
ぱたぱたと空気をかき分ける素振りをする姫。
だが言葉とは裏腹にその顔は実に楽しそうである。
「すまない。・・・・それより今日は・・・何か問題でも起きたのか?
その場合は俺よりもラーハルトを勧めるが。」
相手がポップでなかったいじょうさっさと話題を終わらせようとする気が満々なヒュンケルに
レオナの頬が少し引きつる。
「あら・・・そんなこと言っていいのかしら?ポップ君のことで来たんだけどな〜♪」
「よく来たな、こんなところで立ち話もなんだ。中に入ってじっくり話し合おう。」
現金なものである。しかし姫は予想していたらしく今度は頬を引きつらせずに、にんまりとさせる。
「別にすぐに終わるからいいわよ♪あのね、さっき下の食堂でラーハルトがポップ君を口説いてたけど・・・・
って早っ!!」
皆を聞き終わる間もなくヒュンケルはまさに疾風の如く駆けていってしまった。
残された姫はそんな態度に呆れながらも
「まぁ面白くなってきたからいっか♪」
メルルでも誘って見物しようかしらね〜。と相変わらずな事を考えていた。
途中で何人かを轢きつつ、ようやく食堂にたどり着いたヒュンケルは呼吸を整えゆっくりと扉を開けた。
食堂といってもこの時間帯になると飲み屋と対して変わらない。
昼間の疲れを酒で癒している兵士達が和気藹々と騒ぎ立てている。
そんな中、ヒュンケルは目を凝らして愛しいポップの姿を探し出す。
いた!!
視線の先には、確かにポップがいた。
しかしその横にはやはり情報どおりにラーハルトが居座っている。
更におもしろくないことに、ラーハルトが耳元に何やら囁くと頬を真っ赤に染めて俯いているではないか!!
しかもよく周りを見渡せば、兵士達はただ和気藹々としているのではなく、その行為を囃したてているのだ。
取敢えず兵士達の明日の訓練内容をざっと五倍計算したところでヒュンケルはポップの元へと駆け寄った。
「あっ!ヒュンケルだぁ〜やっほぉ〜♪」
かなり酔っているらしく呂律が怪しくなっている。潤んだ瞳にかなりぐっとくるものがあったが
ここは何とか耐えてみせる。
「ポップ。こんなところで何をしている。お前はまだ15だろ。こんな時間まで出歩くのは良くないぞ。」
ラーハルトのことを完全に無視しつつヒュンケルはポップの腕をつかみ連れ去ろうとする。
が、当の本人は全く移動する気はないらしくピクリとも動かない。
「何だよ!その子供に毎晩あんなコトやこんなコトをしているは何所の誰だよ!!」
周りの白い視線がヒュンケルの元へと一気に集まる。
「い、いや・・・そんなことより早く帰るぞ。」
一刻も早くポップを連れて帰りたい。
「嫌だぁ〜っ意地悪なヒュンケルなんて嫌いだぞぉ〜ラーハルトの方が優しいから好きぃ〜♪」
無情にもそう言い放つとラーハルトの首元へと腕を廻してみせる。
同時にギャラリーから歓声が上がった。
「だ、そうだ悪いな。」
今まで黙っていたラーハルトがここぞとばかりににやりと笑う。
「ポップ!!それから離れるんだ!それと居ても何も良いことなどないぞ!!」
・・・モノ扱いかよ。などというラーハルトの嘆きなど聞きはしない。
「だってラーハルトは俺を口説いてくれるんだもん。ヒュンケルなんてな〜んにも言ってくれないじゃん。」
ヒュンケルの必死の叫びにしぶしぶと離れながらも文句を言う。
「そこだ!ラーハルト!!貴様は何故(俺の)ポップを口説いている!」
普段の冷静沈着な彼は何所にもいない。
「ふんっ悔しかったらお前も口説いて見せればいい。」
突然起きた修羅場に、観客は大盛り上がりだ。
「う゛・・・それは・・・・。」
愛くるしいポップの為とはいえ、気持ちを言葉にしてあらわすのが苦手なヒュンケルにはあんまりなことだった。
「ヒュンケルぅ〜俺のこと嫌いなの??」
じっと見つめてくるポップ。ヒュンケルは覚悟を決めた。
「・・・・・スキダ オマエガ・・・・(棒読み)。」
「却下」
湧き上がるブーイングの嵐と冷徹な審判。
「と、床上手でどうだ!?」
「最悪。・・・ってか口説いてないじゃんそれ・・・・。」
そんなこんなで繰り出されるヒュンケルの口説き文句(自称)に、
始めは楽しそうにしていたポップも段々イラついてきた。
「もういいよ!ヒュンケルのヘタレ〜!!!」
そう叫ぶと、ポップは食堂から走り去っていった。
―――ヘタレ?へたれ!?英語にするとcoward or timid creature。
timidの後ろに poor‐spiritedをつけてもOK!―――
ショックのあまり酷くどうでもいいことまで考え石化してしまったヒュンケルに、
周囲の人々は同情に満ち溢れた視線を送ってあげるのだった。
「なんだよヒュンケルのヤツ!!あいつ、本当に俺のことが好きなのか!?」
部屋に戻ったポップはベッドに横になると枕に顔をうずめて悪態をつく。
「だいたい魔法使いに『空飛び名人』なんて誉め方あるかぁ?
そもそも口説き文句ってのを知ってるのかねぇ・・・。」
だが、先ほどの必死な様子のヒュンケルを思い出すとイライラよりもおかしさがこみあげてくる。
「まぁ・・・許してやるか!でも今日は悔しいから口聞いてやんないぞ!」
ポップは誰にとも無く宣言すると、ベッドの中にうずくまって狸寝入りをきめ込むことにした。
―――コンコンコン―――
「ポップ、入るぞ。」
自分の部屋でもあるのだが遠慮がちなノックと断りをいれ入室する。
恐る恐るポップの様子を伺うとベットに横になっていることが分かり少し気が楽になる。
「寝てるのか・・・・。」
ポップのすぐ横に腰を下ろす。
「さっきは悪かった。
その・・・俺は口説き方など知らないからお前の望むことなど言えないのかもしれないな・・・。
だが言葉には出来なくともお前を愛しく想う気持ちは生涯変わらない。
だから悪いな、俺はお前を離せそうにもないぞ。」
それは実に自己中心的な欲望。しかし彼にとっては数少ない望むもの。
ヒュンケルはポップの顔を覗きこみ寝ていることを確かめると、そっと唇を重ねた。
(だぁ〜!!もぅ!充分口説き方知ってるじゃねぇか!!)
顔は火照り心臓はばくばくいってる。口端だって思わずにやけてしまう。
(大丈夫。お前は俺が欲しいものをしっかり与えれてるさ。
でも俺は気紛れだからな!だから・・・絶対ぇ離すなよ・・・・。)
隣で寝息をたて始めたヒュンケルを起こさぬようそっと身体を寄せる。
―――さて、離れられないのはどちらでしょう?―――
fin.
・後書き・
初H*P小説でしたがいかがでしょうか・・・
ホントなんだかなぁな内容でしたが許してやってください。
設定:@物語中一度も出てきませんがダイは帰ってきています。
A都合よくヒュンケルとポップは同室です。
B二人はすでに交際中です(笑)